組織文化の浸透がエンゲージメントを高める
Authored by 井手 寛暁, 組織開発ダイレクター, パーソルコンサルティング 中国 • 4 min read
■組織文化の浸透がエンゲージメントを高めるカギ
様々な研究結果により、組織文化の浸透が従業員エンゲージメントの向上に直結することを示しています。例えば、中国およびASEAN地域における研究では、トップが示す一貫した価値観と、現場の「家族主義」的な風土を調和させた「ハイブリッド型」のアプローチが、エンゲージメントを高めることが報告されています。ここで最も重要なポイントは、社員側からの「共感」 をいかにして得るか、です。押し付けられた文化は、表面だけの従順を生むだけで、真の主体的な「参加」は引き出せません。
■「組織風土」と「組織文化」は何が違うのか
この議論を進める前に、混同されがちな二つの概念を明確にしておきます。
「組織風土」 は、事業運営の歴史の中で、社員の間に自然と醸成される空気や慣習です。無意識のうちに受け継がれる「わが社の当たり前」と言えるでしょう。
一方、「組織文化」 は、経営陣が戦略を実行・達成するために「こうあるべき」と意図的に言語化し、浸透を図る価値観や行動規範です。
エンゲージメント向上の結果として業績向上を目指すのであれば、この「組織文化」を浸透させることが核心です。組織文化の浸透がエンゲージメントの高い状態を生み出し、その結果、社員一人ひとりが戦略の実現に向けて動き出す。これにより、業績向上への道が開ける可能性が高まります。
■中国・ASEANで文化を浸透させる三つの留意点
アジア、特に中国やASEAN地域で組織文化を根付かせるには、以下の三点に留意することが有効と考えます。
**「家族主義」の尊重: **
現地の職場は、時に「拡大家族」のような性格を持ちます。上司は「家長」として部下の仕事だけでなく、私生活にも気を配ることを期待される風土があります。このような相互扶助の精神を尊重し、文化浸透のプロセスに「家族」のような温かさを取り入れることで、心理的安全性が高まり、受け入れられやすさが格段に向上します。(Z世代はやや異なる傾向があるため要注意。)
**メッセージの「一貫性」: **
経営陣が発するメッセージと、実際の人事評価制度、日々の業務判断は、常に整合が取れているべきです。特に多様な世代・人種で構成される職場では、メッセージが歪められて伝わりがちです。繰り返し、多様なチャネルで、ぶれることなく同じ価値観を伝え続ける「一貫性」が、信頼を築く礎となります。
**「共感」を得るための参加型アプローチ: **
文化は押し付けてできるものではありません。「参加型」 で進めることが、成功の最大の鍵です。現地の管理職や現場の社員をプロセスに巻き込み、彼らの声を反映させることで、当事者意識を育みます。これは、文化を「上から与えられたもの」から「自分たちで作るもの」へと変える、重要な転換点です。
■参加型アプローチを成功させる具体策
では、参加型アプローチをいかに成功裏に進めるか。二つの具体策が有効です。
まずは、「キーパーソンの巻き込み」 です。形式的な役職者ではなく、現場で自然と信頼を集めているインフォーマル・リーダーを早期に特定し、文化策定のタスクフォースに参加してもらいます。彼らが賛同し、自らの言葉で価値観を語り始めると、変化は一気に加速します。
次に、「早期の成功体験(Quick Win)の創出と共有」 です。例えば、ある中華系企業では、新しい「チャレンジ文化」を掲げた際、いきなり全社展開するのではなく、一つのプロジェクトチームをモデルケースとし、リソースと権限を集中させました。そのチームが小さな成功を収めた際、その成果を「新しい文化に基づく行動の結果」として全社で共有しました。この「見える化」された成功が、二の足を踏む社員の心を動かし、浸透を後押ししました。
■まずは「あるべき組織文化」を言語化することから
組織文化浸透は当然ながら一朝一夕には成しえません。まずは、自社が目指す組織文化を明確に「言語化」 することから始まります。その際、現地法人のこれまでの歴史や成功体験を紐解き、変えるべきものと、守り抜くべき「良い部分」を見極めることが大切です。同時に、現在の競争環境や将来の社会情勢を鑑み、今なぜその文化が必要なのかを、社員が納得できる形で示さなければなりません。
その上で、現地の社員を信じぬき、参加型アプローチで共感を醸成し、根気強く進めることで、エンゲージメントは確実に高まり、それはやがて持続可能な競争優位性へとつながっていくのです。
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